〈2〉
ついに採掘できなかった坑口深く
異聞のトレモロTremolo が泣き叫けぶ
真鍮
の葉群  朝の水銀たち   〈語は色の空気分子だ!〉
重層音   塊  緑色のリフレイン    石膏   黄色い部屋  
      さあやれ!   燧石の白い火花    
   反射し合う等分の裏拍    Da の範列!  
そこに 弓なりの指腹を重ねる  
神経の毛羽立ちが羊腸の弦音を捏ねる.


〈羊腸弦音〉
聾唖の黒馬がピアノを弾いていたんだ
灰色の梢を梳く   新月の密かな陰画の旋律で
上空は痩せた乳房の青い月
光の乳液が黒い鬣を濡らしていた


     
置き去りのピアノ   
  散りばめた透明の針音たち    
  きみは 光る雨滴を集めた靴を履く   
  きみの足首から黒髪の房が生まれる    
  肉体のない血流が暗闇を走る


ピアノが静かに止む   
膝まづいた瀕死の馬の    
草臥れた背の輪郭だけが広場に留まっていた


〈3〉
地続きの湿った翳りの中  
僅かな陽射し   穏やかに
Anamorph (無性生殖)の菌群が繁茂する
一衣の水  
不揃いの錆びた鉄音がばらまかれていた


(きっとあらゆる区画からも日々からも絶たれているんだ)
交じりあわない水の四角い分子が渦巻く  
み合わないリフレインの大波  
野獣めいた重波長  
置き去りの骨格を洗い    
耳奥に生える高音の爪
鈍く光る銀線の針音たち
あろうはずのない鬣に絶え間なく触れ  
律儀にも節くれた指が後追いする
弓なりに固まったまま   指腹の幻音を余白に残し   
巡回するいつもの昼の月の耳に    鮮やかに半音階づつ競り上がり
空の鉄箱が軋む何の匂いもなく……
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2021年刊 B5  74ページ  BASE KOBIKI
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〈本文抄録〉
空中オルガン